Archive for 6月, 2010
苦悩の蔵相たち 止められなかった戦争
寺井順一 著
霞出版社 発行
満州事変の発生時に、高橋是清の下で健全財政方針を貫こうとした有能な大蔵官僚たちがいた。中でも、賀屋興宣、石渡荘太郎、青木一男の三人は、実務能力・統率力において秀逸であり、誰言うともなく「大蔵省三羽烏」と称したのである。
本書は、彼らの信念に満ちた生き様を、それぞれの蔵相時代を中心に活写したオムニバス形式の略伝である。
今日、イラク戦争やテロの発生を通じて平和の意味が問い直され、一方で、昭和戦前期を回顧する昭和史ブームが到来している。日米開戦は回避できなかったのか、如何なる要因が妨げとなっていたのか。本書は、戦史とも政党史とも違った角度から解明しようとした新たな形式のバイオグラフィーである。
シャウプの税制勧告 新聞資料編
福田幸弘 監修
井上一郎 編
霞出版社 発行
いま、税制改革は内政の大命題となっている。では、その原点ともいうべきシャウプ税制とは、いったい何であったか。本書は、シヤウプ博士の税制使節団一行が、税制改革のため理想と情熱を傾け、各界の意見を徴し、地方の農村にまで実地調査の足をのばし「日本税制報告書」を完成したそのプロセスと、占領下の政財官界や知織人、一般民衆の声やその対応を、当時の新聞26社の523件にのぽる記事、社説、論文、座談会、投書等を整理編集することによって再現しようと試みたものであり、その実況を生々しく物語って誠に興趣尽きぬ研究資料である。昭和60年刊行の同名書(日本税制報告書の和文訳)の姉妹編であり、併読をおすすめしたい。
租税全書
林 正明 訳述
財政史研究会 編
霞出版社 発行
本書は、明治6(1873)年夏(旧暦6月頃か)林正明によって、求知堂蔵版として岡田屋から出版された、租税に関する当時としては纏まった知見であろう。
当初、明治維新政府は、徳川幕府から財政権の授受に失敗し、零からの出発となったが、明治4年7月、廃藩置県を実行し、統一国家を実現、同年9月には、田畑勝手作を許可、同年10月には、岩倉具視らを海外へ派遣する等、近代化の促進に当たっていた。
このような状況のもとで、林は、幕末、アメリカへ留学、帰朝後、太政官正院、司法省、そして大蔵省へ出仕し、近代化の波に乗った。
当時、大蔵省では、旧制度の租税制度を壊しながら、近代化に対処すべく税制の確立に懸命であった。明治6年7月、大蔵省は、地租改正条例を公布し、一連の作業を開始することとなる。
ところで、本書冒頭で、租税の何たるかを明らかにして曰く。
「夫レ租税ハ、政府人民ヲシテ其財産ノ内ヨリ若干ノ金銭ヲ官庫二納メシメ、之ヲ国用二充ル所ノモノナリ」と。
当時の大蔵省では、合衆国収税法が翻訳されており、これらを併せて、近代化に対処する姿勢が見て取れる。また、構造改革が問われている現在、財政上では、特に税制が政策的に運用されている現在、(租税特別措置法を見よ。)本来の負担体系が壊れていないかを検証する意味でもまた、元にかえって見る必要があろう。言い遅れたことではあるが、今流に言えば、税制改正勧告書とでも言えよう。
以上の観点から見ても、本書の意義は明らかであろう。
信念の人 吉田ワンマン宰相
木原健太郎 著
霞出版社 発行
今どき、なぜ吉田茂か、という人があるかも知れない。
彼は、1878年(明治11年)に生まれ、1967年(昭和42年)に没した。外交官であり、偉大な政治家であったが、大宰相ともてはやされるのは、棺を覆うて後のことである。
終戦とともに外務大臣となり、鳩山一郎が占領軍により追放されたため、総理大臣の椅子が転がり込んだ。以来、五次にわたり、内閣を主宰すること7年 2,616日に及んだ。佐藤栄作氏の2,798日には及ばないが、マッカーサー元帥占領下の厳しく困難な時期を思えば、国家存亡の秋に現れる救国の士が想起されるのである。
在任中の最も大きな業績は、サンフランシスコにおける平和条約の締結であるが、日米安全保障条約、日米行政協定なども生きている。その間の憲法九条や再軍備等に関する彼の国会答弁など改めて想起し、本当の腹の底を問うてみたい気もする。
最近マスコミの開陳する政治家の言動には、バカヤロウの野趣もユーモアもなし、枝葉末節論争多く、彼ならばどう舵取りしてくれるか、いたずらに切歯扼腕する今日である。